東台湾の歴史を巡る旅 花蓮編 林田山林業文化園区、讃炭工房、新光兆豐農場 【花蓮縣鳳林鎮】
【林田山林業文化園区】
林田山は台湾四大林場の一つで、大正7年(1918)、日本人が花蓮に設立した「東臺灣木材合資会社」(翌年「花蓮港木材株式会社」に改名)が伐採をはじめました。1937年、日本政府は戦争で必要な資源獲得のため、林田山に伐採事業所を作り、造船所に必要な針葉木材を伐採して日本に送っていました。
日本統治時代、この付近を「森坂」と呼んでおり、戦後は日本語の発音「もりさか」を漢字に置き換え、「摩里沙卡」と呼ばれていました。今でも、地元に人々はこの地を「もりさか(摩里沙卡)」と呼んでいます。
林田山林場の作業区は山林の奥深くであったため、「摩里沙卡」に木材を運搬していたのはトロッコ、ロープウェーイ、高山鉄道でした。
1950年代以降、林業は成長期に入り、林場は作業員を増員、社宅や公共施設を続々建築しました。全盛期には1000人を超える人々が生活をしていました。幼稚園、小学校のほかに、市場もあり林業生産によって繁栄した山中の小さな都会を形成しました。現在も小学校のグランド跡は残されており、日本時代に作られた滑り台も残されています。
1972年3月20日、作業員の野鼠を焼く火の不始末から延焼面積が2,000ヘクタール、延焼時間が1ヶ月にも達する台湾林業史上最も大きな森林火災が発生しました。この空前の大火災で、ほぼ林田山の命運は尽きました。翌年、中興紙業会社は林田山を営林局に返還し、その後、程なく山林政策が変り、1988年、林田山での伐採は正式になくなり、作業員も離れ、ついにその絢爛さはなくなり、次第に没落していきました。
2001年には、康楽社宅区で火災が発生しました。地元の人々は火災跡地の木材を利用し、人々に防火を呼びかける「火災記念オブジェ」を設置しました。
営林局は森林レジャー事業の発展のために、1981年より林田山森林レジャー区開発計画を専門家に委託しました。森栄部落の13ヘクタールを含む総面積約200ヘクタールの大規模森林レジャー区(文化園区)計画でした。そして完成したのが、「林田山林業文化園区」です。園内には、当時の食堂を改装し、ヒノキ等々の素材を使った見事な彫刻が展示されています。その作品の素晴らしさとヒノキの香りに心癒される場所となっています。また、繁栄当時の忍ばせる様々な用具や日用品が展示されている建物や、復元された工場長の官舎、当時のままの従業員官舎、さらには、作業員たちの娯楽の場を復元した中山堂には、従業員の福利厚生として映画が昔は上映されていました。
林田山林業文化園区の最寄りの駅は、台湾鉄道「萬榮駅」ですが、萬榮は元々の名前は「馬里勿(マリブ又はマリベ)」と言い、これは阿美族の「上り坂」を意味します。この萬榮駅は、日本時代は、馬里勿乘降場(大正3年(1914年))、大正8年(1919年)には、萬里橋駅と名前を変えていき、林田山伐採した木材を運び出すために林田山からの支線が合流する重要な駅となっていました。戦後、行政区の調整が行われ、現在の駅の所在地は萬榮郷となり、駅名も萬榮駅となりました。林田山の林業が衰退したことにより支線は廃線となりました。
≪林田林業文化園区ミニ知識≫
2009年に川口浩史監督、尾野真千子さん主演の映画「トロッコ」の撮影現場となったのが、ここ林田林業文化園区です。現地を訪れる前に是非、映画を鑑賞してから来ていただくと、楽しみは倍増します。
https://www.youtube.com/watch?v=fqD-pBGANN8
【讚炭工房】
讚炭工房は、2005年に鳳林の山の裾野(鳳凰山の裾野)に、20年間校長先生を務めた劉見財先生とその息子さんである台北教育大学芸術設計学系的教授である劉得劭先生の親子が始めた、竹炭の工房です。
60時間、1000度~1200度の熱によって作られた竹炭は94.1%の遠赤外線を放出する台湾でも最高級の竹炭を作っています。
竹炭の原料となる竹は、中央山脈の標高900mのところで自生している竹を利用。最高級の竹炭は、4年~5年目の竹を利用することにより誕生します。この年代の竹は密度も高く、最高級の竹炭を作るのに欠かせない原材料となります。
出来上がった竹炭は、その特徴(水質浄化、環境改善、養生健康)を生かし、様々な製品へと加工されています。竹炭を含んだ茶器やマグカップで飲む、お茶、お水、コーヒーなどは味がまろやかになります。さらに、竹炭を含んだ下着類は、脱臭、殺菌効果も抜群。工房内には、これら竹炭を使った様々な製品が販売されています。
さらに、庭で自生している月桃花の実から作られたお茶や化粧品なども人気の高い商品となっています。
工房見学の他に、庭も開放されており、季節ごとに様々な草花がきれいな花を咲かせています。大自然の中で、ゆっくりとした気分で庭を散策するのは最高です。工房の奥にはガラス細工のDIYが楽しめる別棟もあります。
【東台湾最大の観光レジャー農園 新光兆豐農場】
「花蓮で親子が楽しめる場所ってあるの?」という質問を受ける事があります。答えはYES!!! 東海岸側では「海洋公園」、内陸部では新光兆豊農場です。今回は、新光兆豊農場をご案内しましょう。
1970年代初期、ここは壽豊渓の河川敷でした。台湾大手の新光グループの買い上げ後、河岸整備が進められ、20年に渡って土地改良が行われてきました。当初はさとうきびなどの農作にはじまり、羊や肉牛の牧畜などを経て、1995年から乳牛の飼育を開始しました。現在は緑豊かな観光レジャー農場として人気を集めています。
兆豊観光農場は主に観光フルーツ園と乳牛区、動物園区、さらには、バード園やオウム園、昆虫・蝶生態区があります。
観光フルーツ園ではレモンやアボガド、バナナ、ザボン、キンカン、オレンジなどのフルーツが栽培されています。
牛乳はここの主力生産品であり、乳牛が好む牧草が植えられた70ヘクタールの放牧地は、約500頭あまりが飼育されています。ここで生産された牛乳はすべて鮮乳業者に提供され、市場に出回ります。さらに乳牛の排泄物は農場に設けられている有機肥料製造工場で加工処理され、フルーツ園や牧草、植物園の肥料として用いられています。無駄なく利用することで、自給自足を目指しています。また、乳牛区では、故李登輝総統が和牛の飼育を推奨し、和牛が飼育されています。
牧場とフルーツ園以外にはバード園やオウム園があり、約200種類の鳥類と100種類のオウムが飼育されています。台湾の1000元札の裏側に印刷されている帝雉も飼育されています。
また、動物園区には珍しい金色の毛をした黄金アライグマや鼻長アライグマ、梅花鹿、水鹿、ラクダ、白毛のタイワンザル、ウサギ、羊、ポニーなどの動物たちが飼育され、直接触れ合う事も出来、子供たちの人気者となっています。
昆虫・蝶生態区にはネットで覆われた蝶エリアがあり、色彩豊かな蝶が舞う中を散歩できます。さらに、植物に興味のある方は、水生植物生態区や温室、砂漠植物園、薬用植物園などにも足を運んでください。
園内には、ホテル、温泉(二子山温泉)もあります。大人も子供も楽しめる農場です。
2018年7月には農場の地下に新駅が完成。台湾鉄道東線では初めての地下駅です。花蓮駅からのアクセスも便利になりました。
広大な園区内を移動する手段としては、レンタサイクルや電動カートがあります。レンタサイクルは、4人乗りの電動式タイプもあります。電動カートを運転する際は、普通自動車運転免許証が必要です。これは、日本の免許証でもOKですが、園内は、台湾の道交法に基づき、乗り物は右側通行です。日本とは逆になりますからご注意ください。
【新光兆豐農場 秘話】
新光兆豐農場の母体企業である新光グループは、台湾の五大財閥(國泰、和信、台塑、新光、遠東)の一つに数えられる新光集団です。
創業者は、呉火獅さん。1919年、新竹の貧しい家庭に生まれ育ち、迪化街の布問屋で丁稚奉公。日本人の社長であった小川光定に出資してもらって20歳で新会社を設立。戦後、新光商社を設立されました。(故郷・新竹の「新」と恩人・小川光定の「光」に名前は由来)。当初は日本から布地を輸入、さらに、製茶業も営んでいました。
当時、紡績業は国営もしくは上海から来た資本家の独占、通貨膨張で企業倒産相次ぐ、政府の輸入代替政策で日本からの布地輸入ができなくなる、などの困難を独自の優れた発想を生かし、人造繊維の紡織工場を設立しました。これが新光企業グループの母体となったのです。その後、会社は多角経営に乗り出し、金融・保険を中核に、総合病院、百貨店、セキュリティ事業、一般ガス事業、不動産・リゾート事業など多角的事業を展開する台湾有数の大手企業へと成長しました。
日本統治時代に生まれ育った呉火獅さんは、日本教育の基本でもあった、努力・勤勉・誠実の美徳を生涯大切にされ、向学心を忘れず、人々に喜んで頂ける企業集団を作り上げていきました。
新光兆豐農場 総経理でもあるご子息の呉邦聲さんは「父は日本がとても好きな人でした。いつも、日本の企業を手本に、日本精神を手本にと言っておりました」とおっしゃるほど、日本を愛してくださっていたのが、呉火獅さんでした。新光兆豐農場には、呉火獅さんの銅像が建立されています。
2018年に開業された台湾鉄道の新駅ですが、実は、ご来場くださるお客様の便を考え、すべての工事費を新光集団が負担することで台湾鉄道を説得し、実現する事になったのです。
父親の背中を見て育ったご子息、呉邦聲さんより「是非、日本の皆さんにも大勢、当農場にお越し頂ければと願っています。日本の皆さんのお越しをスタッフ一同、心よりお待ち申し上げております。」というお言葉を最後に預かりました。
コメント
コメントを投稿